アドラー心理学の考え方に触れた学校の先生のなかには、
「これを学校で実践できたらすごいことが起きる!」と思った方もいるのではないでしょうか。
僕がまさにそうでした。
教師になってから何年間かは「叱る」や「褒める」で生徒のことをコントロールしていましたが、少しずつ「なんか違うな。。。」という気持ちが強くなっていきました。
そんなときに読んだのがベストセラーになった「嫌われる勇気」です。
何度も読み返しアドラー関連書籍で研究し、中学校の学級経営で実践してみることにしました。
この記事ではその教室で何が起こったのか。
1年間の軌跡をご紹介します。
実践しようか迷われている方の一助になれば幸いです。
1年間の変遷をお伝えしたあと、どのような方針で学級を運営していたのかをご紹介します。
4月〜5月 学級開期
中学校1年生の生徒たちと一緒に実践しました。
一緒に実践と言っても最初は僕が勝手にその方針でやっていただけですが(;´∀`)
中1の生徒たちは入学したてでまだ緊張していました。
僕はというと入学式前の説明会や初めのオリエンテーションでずっと前に立って大きな声で話していました。
それもあってか、学級の生徒たちは「怖い先生かもしれない」と警戒していたそうです。
2日目くらいに少しヤンチャそうな生徒がみんなの前で僕に聞いてきました。
「先生はけっこう怒りますか?」
ナイス質問!!!(^o^)
マサムネ「いえ僕は怒らないです。」
このときクラスの子どもたちは「本当かなー?」という感じでした。
マサムネ「他の人がどう思っているかはわからないけど、僕は怒っていうことをきかせるのは正しいことではないと思っています。だから僕は怒りません。怒られたから〇〇する。ではなく、誰かの助けになりそうだから〇〇する。という風になってほしいです。」
マサムネ「君たちにしてほしいことがあればお願いするし、してほしくないことについてはちゃんと話したりはするけどね。」
このような話をし、子どもたちを叱ってはならないというカセを自分自身につけるところから、新1年生の春は始まりました。
5〜8月 荒れ期
荒れるというより、すごく自由だったり騒がしかったりしました。
ある日、家庭科の先生にこんなふうに言われます。
「マサムネ学級は1番騒がしい。授業をしていてもすぐわちゃわちゃなってしまうから授業が今ひとつ進みにくい(;・∀・)」
全然イヤな感じで言われたわけではないのでご指摘いただくのは全然大丈夫でした。ただ、予想していたとおりガチャガチャするようになってしまいました。
何せ担任は何をしても怒らないわけですから。
生徒たちは幼稚園から小学校まで叱られ続けて育ってきました。
中学の世界に緊張していたのに、いざ入ってみれば担任は怖くない。
中学楽しい!!!
結果、抑えるものがないので問題行動は増えました。
具体的には以下のようなことが頻発しました。
- 壮絶なケンカ
- おとなしい女子から騒がしい男子へのクレーム
- リーダー不在
- 理屈っぽい男の子と血の気の多い男の子の対立
- コソコソと悪さをするちょいワル男子
大きく崩れることはなかったのですが、それこそ問題行動とその対応のオンパレードでした(^o^;)
一方で他のクラスは一見落ち着いていました。
9月〜12学級 転換期
夏休みが終わり、体育会で変化の兆しは現れました。
体育の授業で他のクラスの短距離のタイムなどをリサーチしている生徒が多いようで、勝ち目がなさそうなことにやる気をなくしている子もいました。
「どうせやっても勝てないしな。」
という雰囲気になっているときに、ふと「今回の体育会の目的は何にしようか?」と問いかけてみました。
生徒「足が速いクラスというわけではないから優勝は難しそうなんです!」
マサムネ「そっか。英語苦手とか、美術苦手とか、そういうのと同じだね。たまたま集まったこのクラスのメンバーが足がめちゃめちゃ速い感じではかったのか。」
生徒&マサムネ「楽しむのを目的にしようか?」
マサムネ「僕は中3の総体でチームメイトに応援されてめちゃくちゃパワー出たよ^^」
生徒「みんなでお互いをめちゃくちゃ応援しよう!」
というような流れで楽しく応援しようという目的を学級で共有しました。
体育会当日は応援が楽しくなってやたらと観客席で盛り上がっていました。
自分のクラスの仲間の出番があるたびにあまり普段はかかわりのない子に対しても声援を送りました。
一方で目的は競技に出場している子を勇気づけることなので度を過ぎた応援はありませんでした。
最終的に学級の雰囲気が
「全然優勝できなかったけど楽しかったね」
といったものになり、
「このクラスが応援は優勝だった^^」と本人たちは満足そうでした。
お互いに勇気を渡しあった体育会の経験をきっかけにその後の合唱コンクールでは優勝し、また徐々にリーダーが自然発生的に育っていきました。
これはとても不思議な経験でしたが、自立を促し自分たちで考える余白があった分こちらの想像を超えて成長してくれたのかもしれないと考えています。
1月~3月 自立期
このころになると1学期には頻発していた問題行動がほぼ見られなくなりました。
何か困ったことが起こるたびに僕に言いに来ていた女子も、相手と対話して歩み寄ることができるようになっていました。
理論派の男の子とヤンチャな男の子もお互いの良いところを認め合えるようになっており、クラスのどこかにはそれぞれの居場所がある状態になっていたように思います。
僕が出張で他の先生に昼食の指導や帰りのHRをお願いしたときも、自動的にHRが始まり、自動的に終わるクラスになっていたので誰の手を煩わせることもありませんでした。
家庭科の先生には「マサムネ学級が一番授業でしっかりしています。指示したら自分たちでサクサク進められる」と言ってもらいました。1学期には全く逆のことを言われていたのにも関わらず、です。
運営の指針
1年の終わりごろにはとんでもない成長を見せてくれた生徒たちでした。
そうなってくれたのは彼ら自身にその力があったからだということは大前提としつつも、どのような指針をもって彼らと伴走したのかを簡単にまとめてみました。
担任としての意識の持ち方
僕自身が常に忘れないよう心がけていたのは以下の3点です。
- 生徒に対してフラットな敬意を持つ
- 課題の分離を行う
- 指導ではなく対話
フラットな敬意とは、子どもといえど対等な相手とみなして尊重するということです。
下にみたり、大人のいうことを聞いて当然という態度をとったりということは絶対にしませんでした。
対等な相手ですから相手の課題に土足で踏み込むようなこともしません。相手の課題とは、例えば提出物を出すということや勉強をするといったことです。
また、問題行動やトラブルが起こった際に教師は指導を行いますが、これもしませんでした。伴走者としてしっかり対話したり問題について議論したりといったことをしっかりと行うだけです。
そのためには交友の関係を結ぶ必要がありますし、生徒自身に興味を持つことも大切です。
生徒たちに示した目標
生徒たち自身にはそれぞれ人生の目的がありますが、僕の方からは次の3つを大切にしてほしいというはたらきかけを行いました。
- 自立すること
- 自分には能力があると自覚すること
- 学級の他の生徒(周囲の人々)は自分の味方であるという意識を持つこと
自立には色んな意味を含みますが、大きくは他人や環境のせいにしないといったところでしょうか。やたらと自分のせいにする必要もありませんが何かの言い訳に他人や環境を持ち出している限りそこから前には進めません。
問題行動を起こす子は自分に自信がない場合が実は多いです。そうではなく、自分にもきちんとできることがあるということを事実として認識してもらう。それを繰り返し伝えました。
学級の生徒や周囲の人々は競うべき相手ではなく、仲間なんだということを伝え続けました。
「〇〇君の行動はみんなの迷惑になっている」と言葉がけするより、
「今君がどんな風にふるまうことが周りの助けになるか考えてみよう。」自分がフラットな状態になるだけでも誰かの役に立てているんだという自覚をもってもらうことが大事です。
他者貢献は幸せのかたちの一つですから、仲間に貢献することが楽しいことだと感じてもらう必要があるわけです。
常に目的論の立場で考える
議論する際には常にそのときの目的を考えました。
今この授業時間は何の目的のためにあるのか、
大きな声で騒いでいる彼の本当の目的は何なのか、
こういったことを常に問い続けました。
授業の時間は学びを深めることが目的ですから、そこから逆算して目的にそぐわないことを考えてもらうことができます。
たいていの問題行動は注目をあびるためになされますし、みんなそのことはわかっています。
繰り返してもらいたくないときは、問題行動には全くフォーカスせず、その子の良いところにだけ目を向けることが効果的です。
また、自分の教育の目的はみんなに自立してもらうことだということも伝えました。
目的論の考え方は、1年をかけて子どもたちにも広がっていきました。
まとめ
1年間叱らず褒めない学級経営をした結果とその方針について、概要をお伝えしました。
端的にいうと「嫌われる勇気」と「幸せになる勇気」の2冊の書籍を自分の身につくまで何度も読み、それを実践しただけ。。。というところです。
後は子どもたちを信じて毎日対話を重ねる。。。この繰り返しでした。
うまくいく補償なんてないですし、すごく怖かったのですが年度途中からは幸せな学校ライフを送ることができました。
もし叱らず褒めない教育に興味がある方は、以下の二冊をお勧めします。
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